思い込み

 友達の上杉貴志と真田行人は家路を辿って、夕日が降り注ぐ坂道を一緒に歩いていた。
「人間ってさ、他人を本当に自分勝手に分析して、そいつはそういう奴だって思いこんでる時あるよな」
「そうなのか? 」クリスチャンルブタン
「うん」
「例えば? 」
 行人は内心そんなこともあるだろうっと思いながらもその続きを促した。
「高校の同じ教室の周囲の人間みてみろよ」
「ふむ」
「例えば坂田とかいるだろ」mbt靴 激安
「いるな」
「奴は非常に親密な人間で、クラスの人気者だったりするよな」
「ああ」
「クラスで孤立した田山にだって気さくに声をかける」
「そういえば、そうだな」MBT
 行人は坂田が教室で一人弁当食べてるところに、坂田がやってきてまめに笑顔で話しかけていることを思い出した。行人もクラスで孤立している彼に、声をかけようとしたことはあったが、意外とそれを行動に移すのが難しい事を知っている。クラスで浮いた人間に話しかける事は、周りからその人間と同一視されやすくなる。学校社会というある種の閉鎖された空間では、中々率先してできることではなかった。ナイキ
「普通はできないもんだ。大多数の人間ができない事をやってのける。俺はあいつのそういうとこみて、良い奴だなって思いこんでいた……」
「思い込んでた? 違うのか」
「ああ……」
 貴志は口元を行人の耳元の持っていき声を潜めて続けた。
「この間アイツの友達からちょっとした事を聞いたよ」
「何を……」
 貴志は周りを窺いながらさらに声を落として、
「坂田は田山に対して、内輪でいるときは、陰気だの、キモイだの言ってるらしい」
「マ、マジか」
「ああ、本当だ」
「しかし、ならなぜ、田山にあんなに親密に声をかけるんだ」
「友達が言うには、周りの女子へのアピールらしい。女は優しい男が好きだからな」
「げ、点数稼ぎかよ、嫌な奴だな」五本指 靴
「まぁ、そんなもんなんだ。俺のあいつの見方も180度変わったさ」
 行人はそれを聞いた後も俄かには信じられなかった。
 後ろを振り返って、坂田をひとしきりみて田山に視線を転じる。
 それを交互に繰り返して、自らの幻想にも似た虚像を修正する作業に時間を割いた。

「次に……」
「え、まだいるの? 」
 幾分行人がこの話題を気重に感じているのを貴志は感じていた。
 だが、敢て彼が他の話題に転じたりする前に、行人の目を捉えながら他の例を切り出した。
 行人は心の準備が覚束ないまま、不安げに貴志の話題に耳を傾ける。
「沢田恵だ」
「あぁ、あの口の悪い女子か」
「そうだ」
「あいつはそのまんまだろ」ビブラム 5本指
 行人はその名を聞いて、少し体の力が抜けた。
 彼女の印象は行人の中で乾ききったコンクリートのように凝り固まっていた。
 ちょっとやそっと、貴志に裏話を聞かされたくらいでは動揺しない自信があった。
「この間あいつさ、荷物一杯もっててさ、俺が教室の入口で突っ立ってたら、邪魔だ、どけ! とか偉そうに言われた、おまけに蹴りも食らった……」
「うえ、そんなことしたの、アイツ」
 意外そうに貴志がいうので、行人は他の彼女の悪行もここぞとばかりに貴志に話して聞かせた。
「それは酷いなぁ、でも最初の話は、お前が悪いんじゃないの? 」
「にしても、もう少し言い方あるだろ」
「まぁな」
 だが、貴志は行人の話を聞いても思ったほど彼女を一緒になって罵倒したりはしなかった。
 行人は少し物足りなさを感じていた。
 完全に自分の側に行人が彼女への印象を翻してくると思っていたからだ。
「みんな、アイツの事性格最悪の鉄の女みたいに思ってる節あるよな」
「あの誰にでもずけずけいう口の悪さみてたらな」
「だが、俺の情報網で得た話じゃ――」ugg ムートンブーツ
「ん? 」
 貴志はもったいぶるように間を空けた後、
「――異常に打たれ弱いらしいぞ」
「え……」
 行人は驚いた。貴志が話の流れ的に、沢田は実は優しい人間だと言って来るものだと思いこんでいた。
 しかし、貴志は薄笑みを浮かべて、思いもかけぬ彼女の特性を口に出した。
「あいつ、ああ、見えて、人に言われたら異常に気にする人間らしいんだよ」
「ほーそれも聞いた話か?」
「違う、実体験だ。俺がある日、彼女の口の悪さに見かねて注意したんだよ、あんまり酷いこと言ってたら嫌われるよってな」
「よ、良くそんなこと言えるな……」
 貴志は比較的、誰相手にも物怖じせず意見できる男だった。
「そしたら、ご、ごめんなさい、気をつけますとかいって、顔真っ赤にして足がくがくになりながら、俺の傍から逃げて言ったよ」
「嘘だー、あの女が? 」
「本当だよ」
 貴志がしたり顔で髪をかきあげて断言した。
 行人はその様子をみてると、からかいたくなって合いの手を挟んだ。
「お前もしかしたら、惚れられてるんじゃないの? 」
「え……? 」
 今度は貴志が驚愕に息を呑んで、静止画のように動きを止めてしまった。
 

 その後も衝撃から立ち直った貴志と行人は、例えるものが尽きると、人間の思い込みというものに論議を移して深く掘り下げていた。
「はー人間いろいろなんだな」
「そういうことだ」
「大抵は表層に現れるものしか人はみていない」
「そうだな」
 二人は坂を降り切って、十字路を右に曲がった。民家が軒を連ねる住宅街をひたすら進んだ先には行人の家があり、その3軒先が貴志の家だった。行人はは家が近づくに連れて、寡黙に歩を進めていた。貴志の暴露話は最初は面白かったが、行人はなぜか彼の話が長引くに連れて、胸のうちに得体のしれぬ不安が黒い澱のようにが積もっていくのを感じていた。
「到着~」
 行人は最後の歩幅をこれまでより大きくとって、我が家の門扉の前の地を力強く踏みしめた。
 ゴールの線を一着で踏みしめる短距離選手のように。
「じゃあ、貴志また明日な」 
 黒い鉄の門扉に背を軽く預けて行人は貴志を見た。
 貴志はすぐには言葉を返さず、行人の顔より下の胸元付近を眺めたまま黙っていたが、舌でぺろりと上唇を舐めると、
「行人、話の続き」
「え? あ、まだあるのか? 」
「ああ……」
 行人は苦笑いをして、門扉の前で腰を据えた。
 貴志が言い足りなさそうして黙って歩いているのを察していたからだ。

「お前さ……俺の事どう思っている? 」
 行人が抱いていた不安は貴志のこの言葉で現実のものになろうとしていた。
 貴志が普段取り沙汰しない話題を続けたのは、この言葉への布石だったのだと感じた。
「そ、そりゃ、親友だよ。ちょっと知的で、でもよく世の中見えてていい奴だと思ってるよ」
「ふ、悪いきはしないな」
「そ、そうか」
「で、でも、たぶん、お前は俺の思いを完全に把握できていない」
 両頬と両耳を真っ赤に染めて、俯いている貴志。
 それは好きな男子を目の前にして告白を間近に控える乙女の眼差し。
 もう行人は自分の推測が当たっている事を確信していた。
 2年前程から自分をみる貴志の視線の変質に行人は気づいていた。
 それはトモダチを見る一般的なそれとは違ってきていた。
「俺さ、前から……お前の」
 貴志の告白は避けようがなかった。
 だが、行人はその時を間近に迎えて、それほど悪い気もしていなかった。
 寧ろ、それを行人も待ち望んでいたのだ。
 ここ数年の付き合いで変わったのは貴志だけではなかった。
「何でも言ってくれ」
 行人は真っ向からその告白を受け止める覚悟だった。
 トモダチから、ホモダチに変わろうとも後悔はしない。
 行人は下唇をぐっとかみ締めた。
「実はなぁ、俺、お、お前の――――か、母ちゃんが好きなんだ……」
「そうか、俺もお前の事を……え!? 」
 行人は貴志の肩に手をかけたまま我に返った。
「ど、どうした行人」
「いや……」

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